ものづくりについて語るその口調は、冷静ながらも時おり熱がこもる。 
コンパクト刺繍ミシン「SAI -彩-」の開発に、メカ設計の担当として携わった吉田さん。その後もさまざまな製品開発や技術研究の現場で活躍してきた。新しい製品を生み出す時に、どのような苦労があるのか。また、その先に、どのような喜びが待っているのか。吉田さんが歩んだ道を振り返っていきたい。 

初めは、必死についていくだけ

ものづくりをしている企業の中でも、自社の製品を持つメーカーで働きたい。そんな思いを持って取り組んだ、吉田さんの就職活動。合同説明会で説明を担当してくれた社員に魅力を感じたことが、TISMへの入社のきっかけとなる。 

「2、3年目くらいまでは必死についていくだけでしたね」。入社後の吉田さんは20代半ばまで、製品の改良業務で腕を磨いた。その後、20代後半を迎える頃から、新製品の設計や縫い技術の研究に携わるようになる。そうした中でも特に印象に残っている仕事が、「SAI -彩-」の開発にメカ設計の担当として関わったことだ。従来の刺繍機よりも、圧倒的にコンパクトで初心者にも優しい設計の、期待の新製品。しかし、開発プロジェクトは当初の想定通りには進まなかった。 

あのチームだからできたこと

彩の開発プロセスの中でも吉田さんたちが困難に直面したのが、発売を1年後に控えた時期の仕様変更だった。「ファーストロットが出来上がった後も仕様が変わった部分があり、そのことが印象に残っていますね。たぶん、あの時のチームじゃなかったら、あれだけの短期間で対応することはできなかったと思います」と振り返る。 

一方で、彩の開発には、社外のデザイナーと協業することやOEMで(他メーカーに委託する形で)製造を行うことなど、TISMにとって初めての試みがいくつもあった。製造を委託したメーカ-を何度も訪ね、話し合いを重ねながら課題を解決する。そうしたやりとりは吉田さんたちにとって新鮮な体験だった。設計者としての思いが詰まった新製品は、こうして完成の時を迎えた。 

次世代の人材を育てるために

彩の開発プロジェクトから数年が経ち、現在の吉田さんは当時と違う立場でものづくりに関わっている。「当時は設計に没頭する感じでしたが、今はその役割を後輩が担当してくれています。自分以外の設計者をサポートする仕事です」。今後また、彩のような新製品を開発する機会があれば、今までとは違う立場で自分の力を活かしたいと考えている。 

仕事における役割が変わった今、吉田さんが特に力を注いでいるのが、次のTISMを担う人材の育成だ。今後のメンバーの成長によって、自分が関わるものづくりの領域も広がっていく。そんな期待を抱きながら、技術者の育成に取り組んでいる。 

開発部門 開発部 吉田亨弘

1986年生まれ 
2009年、TISMに入社。 
製品の改良業務などを担当した後、 
新製品のメカ開発業務や、縫い技術の研究に携わる。 
「SAI -彩-」の開発では、メカ設計の主担当を務めた。 
オフは2人の子どもと楽しい時間を過ごしている。