刺繍で、人々の日常を豊かにする。株式会社笠盛の新ブランド開発ストーリー。

株式会社笠盛 マネージャー 片倉洋一

株式会社笠盛が 2010 年に立ち上げたのが、アクサセリーブランド「トリプル・オゥ(000)」です。その特長は、金属を使わず糸だけでアクサセリーつくり上げていること。糸を球状に重ねた「糸玉」や刺繍によって、立体的な形状が生み出されます。この画期的な技術開発を手がけたのが、ブランドのマネージャーを務める片倉洋一さんです。トリプル・オゥに対する想いや、タジマグループに期待することなどを聞きました。

糸だけでアクセサリーをつくる

フリーランスのテキスタイルデザイナーとして活動していた片倉さんが、群馬県桐生市の刺繍メーカー・笠盛に入社したのは2005年。直後から、企画担当として自社ブランドの立ち上げを担うことになった。笠盛の140年の歴史を通して培われた技術を活かし、自分たちにしか生み出せない価値を新たなプロダクトとして表現する。

その方法を模索する中で出てきたのが、「糸でアクセサリーをつくる」というアイデアだった。 「理想のイメージは、“iPhoneみたいなもの”をつくることでした。その製品が世の中に出た時に初めて、受け取った人は『これが自分たちのほしいものだ』と分かる。そういうものを刺繍で作りたいと思いました」と片倉さんは当時の思いを語る。

刺繍でインベーションを起こすために、何を行えばいいか。そのためにまず必要なことは、発想をリセットすることだと考えた。特定の技術に拠った開発を行うのではなく、自分たちがつくりたいものをゼロから発想する。その困難に敢えて挑戦することになった。

「挑戦」と「ワクワクドキドキ」が力に

開発に費やした期間は約2年。片倉さんたち開発メンバーは通常業務が終わった後の夜間、地道に試作を続けた。刺繍のプログラムや使用する糸、ミシンのスピードなどを変えながら、毎週いくつもの試作品をつくる。そのゴールはなかなか見えなかったが、「昨日より少し進化した」という日々の実感が励みになった。

「当社の会長が大事にしているのが、『挑戦』と『ワクワクドキドキ』です。アイデアが思いついたらとにかく試してみる。そうした会長の考えや、常に難しい技術課題と向き合ってきた当社の風土が、開発を進める上での支えになりました」。 こうした過程を経て誕生したのが、アクサセリーブランド「トリプル・オゥ(000)」である。

「笠盛レース」というレースの製造技術をベースに、布を使わない刺繍を実現。そこからさらに踏み込んで、刺繍そのものを立体的に仕上げる「立体刺繍」の技術を開発した。「発想」「素材」「技術」をリセットして、今までにないプロダクトをつくる。そんな想いを「0」が3つ並ぶブランド名に込めた。

「技術と発想で日常を豊かにする」という使命

トリプル・オゥの魅力は、糸を使ったアクセサリーならではの「やさしさ」だ。軽くて肩こりがしにくく、金属アレルギーのある人でも安心して身につけることができる。また、金属にはないやさしい雰囲気を楽しめることや、染色によって楽しめる色の種類の多さも特長だ。

「結果として、使われる方のおしゃれの選択肢が増えることに意味があると思っています。トリプル・オゥを通じて僕たちが実現したいのは、『技術と発想で日常を豊かにする』というミッションです。女性のワードローブの選択肢を増やすことが、僕たちが提供できる豊かさだと考えています」。

また、トリプル・オゥの開発において片倉さんたちが力を注いだ点の一つが、素材へのこだわりだ。ジュエリーの輝きを表現するために、素材である糸自体をオリジナルで開発した。既存品の中に欲しいものがないのなら、自分たちの手でつくり出す。その姿勢にも、笠盛のものづくりの思想が反映されている。

次の挑戦に向けたタジマグループの役割

笠盛ではこれまで、アパレルブランド向けの刺繍やトリプル・オゥのアクセサリー製造などにタジマ刺繍機を使用してきた。片倉さんはタジマグループに対する印象を、「世界でのシェアが大きくて、ブランドとしての安心感があります。また、トラブルが起きた際などのサポート体制も充実していると思います」と話す。

世の中の人を笑顔にするために、刺繍によって実現できることはたくさんある。そう話す片倉さんが大きな可能性を感じているのが、ハードとソフトの両面でのイノベーションである。「ハード」に位置づけられるのが、設備面の革新だ。発想、素材、技術の可能性をゼロから模索してきた片倉さんは、いま刺繍機の進化にも関心を寄せている。

「これからは、タジマグループと一緒に刺繍機自体をクリエーションしながら、『刺繍でこういうものがつくれたらいいよね』ということを実現していきたいと思います」。トリプル・オゥの誕生によって、「糸のアクセサリー」という新しい市場が生まれ、刺繍の可能性が大きく広がった。次のイノベーションのために、タジマグループが果たすべき役割は小さくない

株式会社笠盛|「今までできなかったこと」に挑む。それを続ければ、刺繍の未来は明るい。

タジマグループ代表の兒島成俊が、当社にゆかりのある方と対談を行うページです。今回は、刺繍メーカー・株式会社笠盛の笠原康利会長にご登場いただきました。常に新技術への挑戦を続け、刺繍の可能性を追求する笠原…



 

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